腱板断裂はなぜ起こる?棘上筋の癒着から紐解くメカニズムと深層筋治療
「五十肩だと思って様子を見ていたら、実は腱板が切れていた」というご相談を、当院では少なくない頻度でお受けします。腱板断裂は転倒や事故などの急な外傷で起こることもありますが、実際には日常のなかで少しずつ進行し、ある日を境に一気に症状が悪化するケースが多いというのが臨床での実感です。今回は、腱板断裂がなぜ起こるのか、そのメカニズムを筋肉の状態から詳しく解説します。
腱板とは―肩関節を安定させる4つのインナーマッスル
腱板(ローテーターカフ)とは、肩甲骨から上腕骨にかけて付着する4つの筋肉、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の総称です。それぞれが腕を挙げる・回すといった動作を担うと同時に、上腕骨の骨頭を肩甲骨の受け皿(関節窩)に引きつけて安定させる、いわば肩関節の「土台」の役割を果たしています。腱板断裂は、この4つの筋肉のうち特に棘上筋の腱に起こることが多く、加齢による組織の変性に加え、腕を挙げる動作の繰り返しや、肩関節の使い方の乱れが重なることで発症します。
見落とされやすいサイン―ペインフルアークサイン
腱板断裂の前段階として重要なのが、棘上筋の腱が上腕骨に付着する部分の「癒着」です。この付着部に癒着が強く起こると、腕を横から挙げていく途中の60度から120度あたりの範囲でズキッとした強い痛みが出る「ペインフルアークサイン」という所見が見られるようになります。この範囲を過ぎると痛みが軽くなるため、患者さんご自身は「たまに痛いだけ」と軽視してしまいがちですが、これを放置していると腱板断裂・腱板損傷に進行するリスクが高まります。
さらに厄介なのは、棘上筋そのものは線維化――つまり筋線維が弾力を失い硬く変性していても、周囲の三角筋が代償して動いてしまうため、初期には強い症状が出にくいという点です。「痛みが少ないから大丈夫」という判断は、実は落とし穴になり得ます。当院では触診で棘上筋の付着部の硬さ・圧痛を確認し、ペインフルアークサインの有無も含めて評価したうえで、症状の強さだけに頼らずしっかりと施術対象に含めるようにしています。
なぜ棘上筋だけでなく肩全体を診る必要があるのか―肩甲上腕リズム
腕を真上まで挙げる(万歳する)動作は、上腕骨だけが動いているわけではありません。肩関節(上腕骨と肩甲骨の間の関節)がおよそ120度動くのに合わせて、肩甲骨自体もおよそ60度、上方に回転します。この2つの動きが合わさることで、初めて180度の挙上が可能になります。これを肩甲上腕リズムと呼びます。前鋸筋・僧帽筋・肩甲挙筋・菱形筋といった肩甲骨を動かす筋肉が硬くなっていると、この上方回旋がスムーズに起こらず、腱板だけに負担が集中しやすくなります。つまり、腱板断裂を防ぐには棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋だけでなく、肩甲骨まわりの筋肉群まで含めて全体のバランスを見る必要があるのです。
線維化のメカニズム―なぜ「何年も違和感がある肩」ができるのか
腱板の筋肉や付着部が線維化するプロセスには、慢性的な血流不足と軽い炎症の繰り返しが関わっています。デスクワークや家事、車の運転などで腕を体の前で使う時間が長いと、肩甲骨は前に引き出された状態(いわゆる巻き肩)で固定されがちになり、棘上筋をはじめとする腱板の筋肉には常に軽い緊張がかかり続けます。この状態が長期間続くと、筋肉内部の血流が慢性的に不足し、酸素や栄養が届きにくくなります。すると筋肉はさらに硬くなり、硬くなることでさらに血流が悪くなるという悪循環に陥り、最終的には筋線維がコラーゲン組織に置き換わったように弾力を失った、線維化した状態へと変化していきます。この変性した組織は、表面的なマッサージやストレッチでは、なかなか元の状態に戻すことができません。
深層筋鍼治療でのアプローチ
当院の深層筋鍼治療では、この線維化して硬くなった腱板の筋肉、特に棘上筋・棘下筋・肩甲下筋の付着部に、長く太い鍼で直接アプローチします。表面から触れただけではわかりにくい深部の癒着や硬結を、丁寧に触診で探りながら刺鍼していくのが特徴です。他の鍼灸治療と比べて強い刺激を用いること、そして置鍼を行うことが当院の特徴です。鍼を一定時間留置するのは、軸索反射による血流改善・鎮痛効果を、刺激した神経領域に十分に波及させるためであり、これは単発の刺鍼だけでは得られない、北京堂浅野式の根幹をなすプロセスです。あわせて、肩甲上腕リズムを妨げる前鋸筋・僧帽筋・肩甲挙筋・菱形筋にも触診を行い、可動域制限に関わっている場合は施術対象に含めていきます。
急性期(夜間痛や自発痛が強い時期)であっても、当院では「炎症があるから触れない」のではなく、痛みの原因となっている部位に適切な刺激を入れることを方針としています。特に夜間痛が強い場合、頸椎から出る神経(C7周辺)や腕神経叢周囲の筋肉の凝りが症状を増悪させていることが多く、そこにもしっかりと鍼を行います。
すでに断裂が疑われる場合
強い外傷歴があり、腕が全く挙げられない、力が入らないといった症状がある場合は、まず整形外科でMRIなどの画像検査を受けていただくことをおすすめしています。断裂の程度によっては手術が必要になることもあるため、個別の診断は医療機関にお任せする必要があります。そのうえで、断裂周囲の筋肉の硬さや、肩甲骨まわりの可動域制限に対しては、鍼治療が回復のサポートとして力を発揮できる場面が多くあります。
那覇・首里で肩の痛みにお悩みなら
北京堂鍼灸首里いじゅ治療院では、施術者歴18年・施術回数3万5000回以上の伊集和重が、長く太い鍼で腱板の深層・線維化した組織へ直接アプローチしています。那覇市内はもちろん、浦添・宜野湾・糸満・豊見城方面からも多くの方にご来院いただいています。「五十肩だと思っていたのに治りが悪い」「腕を挙げる途中だけ痛い」という方は、腱板の状態を一度しっかり評価させてください。