「歩き始めの一歩がいちばん痛いんです」。那覇市首里の北京堂鍼灸首里いじゅ治療院に来院されたある患者様は、初診時にそう話してくれました。座った状態から立ち上がる瞬間、朝ベッドから起きて最初の数歩、階段の一段目。股関節痛は、こうした「動き始め」に強く出ることが多い症状です。今回は、実際の施術の考え方に沿って、股関節痛がどのように評価され、どう変化していくのかをご紹介します。
この患者様は、デスクワーク中心の仕事をされている40代の方でした。数年前から股関節の違和感はあったものの、「年齢のせいだろう」と思い込み、湿布を貼りながらだましだまし過ごしてきたそうです。半年ほど前から歩き始めの痛みが強くなり、階段の上り下りでも一瞬踏み込みをためらうようになったことをきっかけに、当院を訪れました。
来院時の様子——「股関節が原因」とは限らない
股関節そのものにレントゲン上の異常がなくても、股関節周囲の痛みを訴える方は少なくありません。股関節は骨盤・大腿骨・多くの筋肉や靭帯が360度から支え合っている関節で、少しのバランスの崩れが痛みとして表面化しやすい場所でもあります。問診では、いつから、どんな動作で痛むのか、過去に足首や膝を痛めたことがないか、座り方や立ち方の癖なども含めて丁寧に伺います。実は股関節の痛みの原因が、股関節そのものではなく、足首や膝、あるいは反対側のかばい動作から来ていることも珍しくありません。
触診で見えてくる、深層外旋六筋と腸腰筋の硬さ
実際に股関節まわりを触診すると、お尻の奥深くにある深層外旋六筋(梨状筋・上双子筋・下双子筋・内閉鎖筋・外閉鎖筋・大腿方形筋の総称)が、ゴリゴリとした硬い組織になっていることがよくあります。この筋肉群は股関節を外側にねじる、股関節のはまりを安定させるという役割を持つ小さな筋肉の集まりです。
座り方の癖でこの筋肉が縮んだまま硬くなると、股関節が外側に開いたような姿勢になりやすく、動きがロックされた分を腰や反対側の脚がかばって代償することになります。逆に弱化して伸びたままの状態が続くと、股関節が内側にねじれ、骨盤が前傾して反り腰につながることもあります。どちらのパターンでも、動き始めの一歩に強い痛みが出やすいのが特徴です。
あわせて、股関節の前面を通る腸腰筋(大腰筋と腸骨筋をあわせた筋肉)の硬さも重要な確認ポイントです。デスクワークや車の運転で股関節を曲げた姿勢を長時間続けていると、腸腰筋は縮んだまま硬くなりやすく、股関節を伸ばす動作、つまり歩き出しの一歩や階段を上る動作で強い突っ張り感や痛みを引き起こします。
施術の経過——奥の筋肉から順にほぐしていく
初回の施術では、まず深層外旋六筋と腸腰筋の硬さを丁寧に確認し、長い鍼で奥まで届かせるように刺鍼していきます。深層外旋六筋の近くには坐骨神経が走行しているため、刺激が入ると太もも裏やお尻にかけて響くような感覚が出ることもあります。腸腰筋については、うつ伏せの体位で腰椎の横から、あるいは仰向けで腸骨の内側に沿わせるように、深さ9〜15センチ程度の長い鍼を用いてアプローチすることもあります。
1回の施術で歩き始めの痛みが軽減する方もいれば、何年も硬くなっていた組織の場合は数回にわたって少しずつ変化が出てくる方もいます。「施術直後は少し重だるい感じがしたけれど、翌朝起きた時の一歩目が楽になっていた」という感想をいただくことも多く、股関節周囲の深い筋肉が変化してきているサインだと捉えています。
この患者様も、初回の施術直後は太もも裏に少し張るような感覚があったものの、3回ほど施術を重ねたあたりから「朝起きて最初の一歩で身構えなくなった」と話してくれるようになりました。数年がかりで硬くなった組織なので一足飛びには変わりませんが、施術のたびに少しずつ動き出しの負担が減っていく様子を、ご本人と一緒に確認しながら進めています。
足首・下腿の硬さが股関節に影響することもある
股関節痛の評価では、股関節そのものだけでなく、足首や下腿の筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋・後脛骨筋など)の硬さもあわせて確認します。足関節の可動域が制限されていると、歩行時の衝撃吸収がうまく働かず、その負担が膝や股関節の代償動作として跳ね返ってくることがあるためです。腰や股関節だけを診るのではなく、足元まで含めて全体を診ることが、当院が大切にしている考え方のひとつです。
なぜ股関節周囲の筋肉は硬くなりやすいのか
沖縄は車社会です。那覇市内から浦添、宜野湾方面への移動も車が中心という方が多く、長時間の運転で股関節を曲げた姿勢が固定されがちです。渋滞の中でのブレーキ操作、車への乗り降りで股関節を屈曲・外転・回旋させる反復動作も、深層外旋六筋や腸腰筋に日々小さな負担を積み重ねています。「特別な運動をしたわけでもないのに股関節が痛い」という方の背景には、こうした日常の姿勢の積み重ねが隠れていることが多くあります。
また、慢性的に股関節周囲の緊張が続くと、腰方形筋や中殿筋、大腿四頭筋の外側頭までセットのように硬くなってくることもあります。これは丸まり腰タイプ・反り腰タイプいずれの姿勢パターンでも起こりうる共通の硬化パターンで、骨盤の左右の安定性や、膝・股関節の動きに広く関わっているため、股関節痛の施術ではこのあたりまで含めて確認することが大切です。
慢性化した股関節痛の裏にある「線維化」
「何年も股関節に違和感がある」「マッサージやストレッチを続けてもあまり変化がない」という場合、筋肉の線維化が進んでいる可能性があります。深層外旋六筋や腸腰筋のように、大きな負荷を長期間受け続ける筋肉、あるいは筋肉が骨に付着する部分では、慢性的な虚血と軽い炎症の繰り返しによって、しなやかな筋線維の一部が弾力の乏しいコラーゲン組織に置き換わっていきます。この状態になると、休息やストレッチだけでは組織の入れ替わりが進みにくくなります。
当院では、この線維化して硬く変性した組織そのものに鍼で機械的な刺激を直接加え、こり固まった筋線維をほぐして組織の入れ替わりを促す特殊な刺鍼法を用いています。表面的な施術では届かない深さにこそ意味を持つアプローチであり、「何年も治らない」股関節痛にこそ効果を発揮しやすい方法です。
先ほどの患者様も、初診時の触診で深層外旋六筋にゴリゴリとした線維化した組織が広範囲に触れました。長年「年齢のせいだから仕方ない」と諦めていたそうですが、実際には線維化した筋組織という、鍼でアプローチできる対象がはっきり存在していたということになります。年齢だから、体質だからと片付けてしまう前に、一度触診を受けてみることをおすすめしています。
他の鍼灸治療と比べて強い刺激を用いること、そして置鍼を行うことが当院の特徴です
深層外旋六筋や腸腰筋のような奥深い筋肉に効果的にアプローチするためには、それに見合った刺激量が必要だと当院は考えています。鍼を一定時間留置する置鍼を行うのは、軸索反射という反応を十分に引き出し、刺激された神経領域に血流改善・鎮痛効果が波及する時間を確保するためです。刺激量は体格や筋肉量、痛みへの感度に合わせて調整しますので、鍼の刺激に不安がある方もまずはご相談ください。
ご自宅でできるセルフケア
1. お尻のストレッチ(梨状筋ストレッチ)
仰向けに寝て片方の足首をもう片方の膝の上に乗せ、下の脚の太ももを両手で抱えて胸に引き寄せます。お尻の奥に伸びを感じるところで20〜30秒キープ。深層外旋六筋の緊張を和らげる助けになります。
2. 腸腰筋のストレッチ
片膝立ちの姿勢から、後ろの脚の股関節をゆっくり前に押し出すように体重をかけます。股関節の前側が伸びるのを感じながら20秒程度キープ。デスクワークや運転の合間に行うと、股関節が縮んだ姿勢のままになるのを防ぎやすくなります。
ただし、これらのストレッチは日々の負担を和らげる予防的なケアであり、すでに線維化してしまった深層の組織を根本的に変えるものではありません。歩き始めの痛みが続く場合は、奥の筋肉に直接アプローチできる施術を検討する段階だと考えられます。
こんな症状があれば一度医療機関へ
股関節痛の中には、股関節そのものの変形や炎症、まれに他の疾患が隠れているケースもあります。安静にしていても強い痛みが続く、発熱を伴う、急激に体重が支えられなくなった、転倒などのケガの後に痛みが出ているといった場合は、まず整形外科など医療機関の受診を優先してください。当院でも、そうした所見がある場合は無理に施術を進めず、受診をおすすめしています。安全を確認したうえで、筋肉由来の痛みに対しては深層筋鍼治療でしっかり向き合っていきます。
那覇・首里で股関節痛にお悩みの方へ
北京堂鍼灸首里いじゅ治療院は、沖縄県那覇市首里で18年、施術回数3万5000回以上の実績を持つ鍼灸師・伊集和重が施術を行う治療院です。長く太い鍼を使い、深層外旋六筋・腸腰筋といった股関節周囲の奥深い筋肉へ直接アプローチする深層筋鍼治療を専門としています。那覇市内はもちろん、浦添・宜野湾・糸満・豊見城方面からもご来院いただいています。歩き始めの一歩が怖い、階段の上り下りがつらいという方は、一度当院の深層筋鍼治療をお試しください。「年齢のせい」「体質だから」と諦める前に、実際に触診を受けてみることで、これまで気づかなかった硬さの原因が見つかることもあります。